Top > Works > H.265(HEVC)を試してみる (2014年6月25日掲載)

H.265(HEVC)を試してみる

最近になって、新たな動画コーデック「H.265」(別称「HEVC」)が登場しました。2003年に規格が策定されここ数年のあいだにかなり一般的になった動画コーデック「H.264」(別称「MPEG-4 AVC」)の次世代バージョンにあたるのがH.265で、H.264のおよそ2倍の圧縮効率を誇るとされています。

これは同じくらいの画質の動画ファイルを作る場合、H.265でエンコードすれば、H.264でエンコードした場合の半分程度のファイルサイズで済むことを意味しています。また、H.264とH.265で同じファイルサイズにエンコードすれば、H.265のほうがより高画質になります。詳しい解説への手がかりはWikipediaなどもご参照ください。

H.264やH.265など高効率の動画コーデックが登場し普及していくことのメリットは、より高画質な動画ファイル、より高解像度な動画ファイルを、従来と同じくらいかあるいはより小さなファイルサイズで、送信したり配信できるようになる点にあります。特にファイルサイズやビットレートをなるべく抑える必要のあるダウンロード版やストリーム配信において、大きなメリットがあります。

一方で、そうした高効率の動画コーデックのエンコード(圧縮)・デコード(再生)には、性能の高いPCやスマホが必要になってしまうというデメリットもあります。

現状、フルHDまでの動画ファイルの配信に関しては、H.264でも充分に実用的なファイルサイズに抑えられるほど高効率であり(「ダウンロード版のフォーマット変更について」掲載の動画ファイルもご参照ください)、H.265が必要となる状況はまだ多くはないと思います。

今回は実験的に、動画編集ツール「AviUtl」とH.265のエンコードプログラム「x265」を利用して、H.265の動画ファイルをエンコードしてみましたので、以下にサンプルファイルを掲載いたします。ご興味のある方は、スムーズな再生の可否などについて、お試しいただければと思います。なお、動画の内容としてはすでにYouTubeに出ているものと完全に同一であり、このページの動画に新たなシーンは含まれていません。

【2019年12月22日追記】
このページにあったサンプル動画ファイルの掲載は終了しました。下記文中のGoogleドライブへのリンクは機能しません。

はじめに … H.265の動画ファイルの再生環境について

現状ではH.265の動画ファイルの再生に対応したソフトはたいへん限られます。今回掲載したH.265の動画ファイルは、フリーソフトの「Media Player Classic Homecinema 1.7.5」SourceForge.JPの「Media Player Classic」のページでダウンロード可能)および「VLC Media Player 2.1.3」公式サイトの日本語ページでダウンロード可能)で再生できることを確認しています。その他、H.265への対応を謳った動画ソフトでも再生できるかもしれません。

マイクロソフトの「Windows Media Player 12」では現時点では再生できません。

比較用に載せているH.264のファイルは「Windows Media Player 12」も含め数多くの動画再生ソフトで再生可能です。

サンプル動画ファイル …同じビットレートでのH.265とH.264の比較

動画編集ソフトで書き出した「パイ投げ体験その19 暗記編」の予告動画ファイル(3840x2160・1分35秒・約1.09GB)を、同じ解像度のまま、H.265のエンコードプログラム「x265」のデフォルト設定に近い設定でエンコードすると、約3.5Mbpsのビットレートのファイル(1分35秒・約42MB)が出力されました。比較対照用に、同じビットレート(同じファイルサイズ)になるよう、H.264でもエンコードしました。

また、フルHD(1920x1080)についても、約1.2Mbpsのビットレートで、H.265とH.264の両方でエンコードしています。

補足説明の欄でも書いているように、今回のエンコードは極端に低いビットレートでの比較になっていて、充分なビットレートでエンコードした場合のH.264やH.265の画質を試すものではありません。両者の画質の上限を示すものではありませんので、その点はご注意ください。

H.265の動画のコンテナにはmkvを利用しています(コンテナとコーデックは別物ですので、拡張子がmvkだったらH.265動画というわけではありません)。

ファイルサイズとサーバ負荷の都合上、サンプル動画ファイルはGoogleドライブに掲載しています。以下の「…….zip」のリンクをクリックすることでダウンロードしていただけます。(参考:Googleドライブからのダウンロード手順)

※ZIPにしていますので、ダウンロード後、解凍してからご覧ください。
※早期に掲載終了する場合があります。

4K(3840x2160)での比較

ビットレートはH.265・H.264いずれも平均およそ3.5Mbpsです。

4K(3840x2160)での比較用クリップ … h265-h264hikaku_pt19pv01_3840x2160.zip (Googleドライブ、85MB)

フルHD(1920x1080)での比較

ビットレートはH.265・H.264いずれも平均およそ1.2Mbpsです。

フルHD(1920x1080)での比較用クリップ … h265-h264hikaku_pt19pv01_1920x1080.zip (Googleドライブ、31MB)

おおまかな印象

動画のエンコードをいろいろ試された経験のある方ならおわかりいただけるかと思いますが、圧縮効率の良いH.264であっても、フルHDで1.2Mbpsというビットレートは、けっして充分とは言えません。フルHDとの画素数の比率から推定すると、4K動画の3.5Mbpsという数値も、エンコードの条件としては極端に低いビットレートです。

実際、上記動画のとおり、H.264のほうはフルHD・4Kとも画面全体に帯域不足の感があり、部分的にブロック状のノイズも見られます。しかし、H.265はのほうは、同一ビットレートにもかかわらず、なんとかディテールを残しつつ、且つノイズを目立たないよう、巧みに圧縮している印象です。H.265の圧縮効率はかなり高いと言えそうです。

キャプチャ画像での比較

4K版のエンコード動画からキャプチャした2シーンの画像での比較です。ご参考まで、エンコード前のマスター動画から切り出した画像も載せています。クリックするとブラウザのウィンドウサイズに合わせて拡大画像が表示されます。拡大後の右上のズームボタンをクリックまたは画像部分をダブルタップすると、オリジナルサイズ(3840x2160)で見られます。

オリジナルサイズで表示すると、モデルさんの肌のディテールに違いがあり、H.265のほうがH.264よりもディテールが残っています。ただしエンコード前のマスター動画と比較すると、H.265のほうもいくぶん細部が塗りつぶされています。さすがに3.5Mbpsでは、H.265でもオリジナルとほぼ同一の画質の維持は難しいと思われます。

以下は、上記の画像から中央部分を切り出したものです。こちらのほうがよりわかりやすいと思います。クリックすると拡大画像が表示されます。

縦のスライドバーの移動により、H.264とH.265を切り替えて表示できます。

H.265 3.5Mbps
H.264 3.5Mbps
H.265 3.5Mbps
H.264 3.5Mbps

補足説明

今回掲載したH.265の動画は、H.265エンコードソフト「x265」により作成しています。「x265」はまだ開発中のベータ版のため、「クオリティー」の設定値の他は、あまり細かな設定はできませんでした。クオリティーを高くしすぎるとエンコードにあまりにも時間がかかったため、x265のデフォルト設定にほぼ近い設定のままでエンコードしています。その結果出力されたファイルが、4Kのほうは約3.5Mbpsというビットレート、フルHDのほうは約1.2Mbpsというビットレートでした。その上で、同じファイルサイズになる設定で、H.264の動画をエンコードしました。エンコードには、4Kのほうで実時間のおよそ6倍の時間がかかっています(エンコードに使用したPCのCPUはCore i7-4770、メモリ16GBです)。

サンプルとして使用した「パイ投げ体験その19 暗記編」の動画は、画面の中央に被写体が一人いて、背景に細かな模様はなく、しかも全体にかなり動きが少ないという、大幅に小さなサイズに圧縮しやすいソースです。それもあって出力結果がかなり低いビットレートに抑えられているかもしれません。複数の被写体がもう少し複雑に動くような動画であれば、さすがにもっと高いビットレートを要すると思われます。

今回の比較結果は「H.264ですらノイズが目立つような極端に低いビットレートでも、H.265であれば比較的破綻が少ない」ということを示すものですが、当然ながら、それぞれのコーデックの画質の限界を示すものではまったくありません。もっとビットレートを上げれば、どちらのコーデックでも今回の結果よりも高画質で出力できます(より高いビットレートでエンコードしたH.264のサンプルについては「ダウンロード版のフォーマット変更について」もご参照ください)。同じ程度の画質を実現するためにはH.265のほうがH.264よりもファイルサイズ(ビットレート)が少なくて済むという公式説明を、一例として改めて追試したに過ぎません。

このようなことを試みたいちばんの関心は、4K版の動画について、ある程度の画質を保ちつつどれくらいのファイルサイズにまで抑えることができるのかという点でした。しかし、今回はベータ版の「x265」のデフォルト設定に任せてエンコードしたため、H.265でのビットレートも含めた各種パラメータの適正値がどのようなものなのか、まだ確認はできていません。

H.264でも、今回のように動きの少ない作品であれば、20〜30Mbps前後のビットレートでそこそこの画質を確保できるのではないかと推測しています。しかしながら、30Mbpsでも、たとえば約25分の「パイ投げ体験その19」は約6〜7GBほどのファイルサイズになり、ダウンロードでのご提供は少々厳しいかもしれません。

当面、4K版を希望される方がおられるとすればファイルをBD-Rに書き込むデータディスク形式でのご提供になると思いますが、ダウンロード版の可能性についても、いろいろ試しながら検討したいと思います。再生の可否や再生環境の情報などについて、一言メッセージフォームなどからお気軽にフィードバックをお寄せいただけると参考になります。

【6月28日追記】
「パイ投げ体験その19 暗記編」のダウンロード版をご注文いただいた方で、ご興味のある方・ご希望の方を対象に、試験的に作成した同作品全編(収録時間約25分)の4K・H.265(HEVC)のダウンロード版を頒布しています。このページに記載のH.265版サンプルファイルと同じ設定で全編をエンコードしたものです。詳細は「4K・H.265版を試験的に頒布します」をご参照ください。